『石を捨てる』
若谷和子
赦せないことを 赦すのが
赦しなら
もうこの心から 石を捨てよう
握りしめていた 悲しみを捨てよう
だが
ここまで来る 道程(みちのり)の
固い支えであったものを捨て
この先きを
どうやって生きたらいいのか
桜は凍上に咲くだろうか
連翹(れんぎょう)は極寒に開くだろうか
それこそは 暖かな光のうちに
だから石を捨てよう
石を捨てて微笑(ほほえ)もう
はじめは少しぎこちなくても
ほのぼのと ほのぼのと笑っていると
荒れはてた 胸の奥に 春がくる
石を捨てよう
冷たい石を癒(いや) しの海に
(『母ときた道』から)
(お断り→1,2行の「許」を「赦」に変更しています。)